おばあちゃんシリーズ第三弾(?)
これは本屋さんで見つけた小さな絵本「パリのおばあさんの物語」です。
女優で作家でもある岸惠子さんが翻訳された、フランスの絵本です。
主人公のおばあさんはユダヤ人の移民で、言葉も文化も違うフランスで結婚し
子供を育て、差別や迫害や戦争がある暗黒の時代を生き抜いてきました。
そして今は、老いと孤独と思い出と共に、静かに一人暮らしています。
そんなおばあさんの今の暮らしと、思い出が交差してストーリは進んでいきますが
テーマはけして軽いものではなく、深刻で重くせつないものです。
でも、おばあさんのおちゃめで、ユーモアのあるちょっととぼけた語り口と
かわいくて、やさしくて、はなかげで、不思議な味のある、ゆるいパステル調の
イラストが、毅然としたさわやかさ漂よう物語に仕上げている、素敵な絵本です。
訳者の岸惠子さんは「あとがき」で、こう語っています。
「人間が持つもう一つの平等なさだめは、年老いていくことです。
老いをどう生きるかという大事なテーマのなかで、人はその人となりを
完成していくのだと思います。
若いときのはじけるような情熱や、ときに無鉄砲な決断力や行動力が
まぶしいほどの成果を生んでいた輝かしい時代・・・
それが遠のき老いの身の孤独をどう生きてゆけるのか・・・
愚痴っぽくて自分勝手な頑固者になるか、感謝の気持ちで他人にも
自分にもやさしくなれるのか、そこが人間としての勝負どころです。」
この物語のおばあさんは、岸さんがおっしゃる「感謝の気持ちで・・」の見本のような人。
若い頃とは違い、出来なくなったことがたくさんあって、物忘れがはげしくなり
髪は白く顔はシワシワ、足腰どころかどこもかしこも弱り、不自由な身になっても
ユーモアと希望を忘れず、愚痴らず恨まず嘆かずに
ちょっぴり寂しくても、がっかりしても、今の自分を精一杯生きています。
この絵本は、誰の身にもやってくる老いと孤独に対する
パリのおばあさんからのやさしい教え・・・のような気がします。
本の最後でおばあさんは、「もう一度若くなってみたいと思いませんか?」と聞かれ
「いいえ」と答え、さらにそのあとその理由が語られます。
私はこの本の中で、ここの語りが一番好きです。
「パリのおばあさんの物語」
著 者:スージー・モルゲンステルヌさん
イラスト:セルジュ・ブロックさん
訳 者:岸惠子さん
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